地図にない感動を、言葉で旅する。
冬の五能線は、その言葉がいちばん似合う場所かもしれません。
朝の青森駅。
改札を抜けた瞬間、肺に入ってくる空気が、きりりと冷たい。
吐く息は白く、やわらかい雲のように空へほどけていく。
旅のはじまりには、いつも少しだけ緊張がある。
けれど冬の五能線に向かう朝は、その緊張すら心地いい。
ホームに滑り込んできた列車の車体には、夜のあいだに積もった雪が静かに張りついていた。
ドアが開くと、車内のあたたかな空気が流れ出す。
今日、僕が乗るのは冬の五能線。
これまで何度も取材で訪れ、季節を変えて乗ってきた路線だ。
春の新緑も、夏の深い青も、秋の紅葉も知っている。
それでも、いちばん胸をつかまれるのは――冬だ。
路線図の上では、日本海沿いを結ぶ一本の線にすぎない。
川部から東能代へ、約147km。
けれど実際にその座席に腰を下ろし、窓の外を見つめればわかる。
それは「移動」ではなく、「景色を味わう時間」そのものだ。
発車のベルが鳴り、列車はゆっくりと動き出す。
ガタン、とレールを踏む音が規則正しく響く。
窓の外は、すでにモノクロの世界だった。
白神山地は雪に包まれ、深く息をひそめている。
日本海は鉛色に揺れ、冬の光を鈍く反射していた。
車内には、観光客らしき人もいれば、地元の通勤客もいる。
それぞれの目的を抱えながら、同じ景色を共有する。
僕はいつも思う。
五能線は「有名観光地へ行くための列車」ではない。
風景そのものが目的地になる、数少ない路線だ。
特に冬は、その本質がむき出しになる。
雪が余計な色を消し、輪郭だけを残す。
海と山と線路だけが、静かにそこにある。
旅行雑誌や観光サイトでは、「絶景ローカル線」と紹介されることが多い。
実際、各種観光キャンペーンやJR公式情報でもその魅力は語られている。
けれど、データや肩書きでは伝わらないものがある。
それは――
車窓に流れる雪景色を前に、言葉を失うあの瞬間。
カメラを構えようとして、ふとやめてしまう。
「この景色は、記録するより、焼きつけたい」と思うからだ。
寒さで窓ガラスがわずかに曇る。
指先がかじかむ。
それでも目は、外の世界から離れない。
寒ささえも、この旅の演出だった。
もしあなたが、効率のいい旅を求めているなら、
五能線は少し不便かもしれない。
本数は多くない。
天候に左右されることもある。
だからこそ、僕は言いたい。
それでも乗る価値がある、と。
時間を急がないこと。
予定通りにいかない余白を受け入れること。
ただ窓の外を眺めること。
冬の五能線は、そんな“旅の本質”を思い出させてくれる。
列車はゆっくりと、日本海へ近づいていく。
やがて視界が開け、海が現れる。
その瞬間、車内の空気がわずかに変わる。
誰かが小さく息をのむ音。
カメラのシャッター音。
そして、静かな感嘆。
僕はその瞬間が好きだ。
見知らぬ人同士が、同じ景色に心を奪われる時間。
冬の五能線は、ただの鉄道路線じゃない。
人生の速度を、ほんの少し落としてくれる装置だ。
さあ、あなたもその座席に座ってみてほしい。
モノクロの世界が、ゆっくりと動き出す。
次の駅に着くころ、
きっとあなたの中にも、何か静かな変化が生まれているはずだから。
五能線とは?|青森と秋田を結ぶ“絶景回廊”
五能線は、秋田県能代市の東能代駅から、青森県西津軽郡深浦町を経て、
青森県西津軽郡鰺ヶ沢町の川部駅までを結ぶJR東日本のローカル線です。
全長147.2km。数字だけを見れば、決して特別に長い路線ではありません。
けれど、僕は断言できます。
この147.2kmは、日本でもっとも“感情が揺さぶられる147.2km”のひとつだと。
これまで何度も現地を歩き、季節を変えて乗車し、
沿線の宿に泊まり、駅前の商店で地元の方に話を聞いてきました。
観光パンフレットに書かれている情報も、
JR公式サイトの路線図や時刻表も、もちろん確認しています。
でも、最終的に心に残るのはデータではありません。
海の匂い。
雪を踏む音。
列車がゆっくりカーブを描き、日本海が一面に広がるあの瞬間。
五能線は、日本海の荒波と、世界自然遺産・白神山地の懐をかすめるように走ります。
線路はときに海岸線すれすれまで寄り添い、ときに雪深い山あいへ分け入っていく。
鉄道ファンから高い人気を誇るのも頷けます。
けれど、五能線の本当の魅力は“鉄道的価値”だけではありません。
旅人の感情を、ゆっくりとほどいてくれること。

※この画像はイメージです。
特に冬季。
この路線は、まるで別の人格を持つかのように姿を変えます。
白銀の世界と、紺碧――いや、冬特有の深く重たい群青色の日本海。
そのコントラストは、あまりにも静かで、あまりにも強い。
晴れた日の午前中、雪原が光を反射し、海が鈍く輝く時間帯。
夕刻、雲の切れ間から差す光が水面に落ちる瞬間。
吹雪のなか、車窓が白に包まれ、次の瞬間ふっと海が現れるドラマ。
どの場面も、息をのむほどの美しさです。
そして不思議なのは、
その美しさが“派手”ではないこと。
絶景と聞くと、思わず歓声をあげるような風景を想像するかもしれません。
けれど冬の五能線は違う。
胸の奥が、静かに震える。
言葉が出ない。
シャッターを押す手が止まる。
ただ見つめるしかない時間が流れる。
取材で何度も乗っている僕でさえ、毎回そうなります。
147.2kmという距離は、単なる移動時間ではありません。
それは、都市のスピードからゆっくりと離れ、自分の呼吸を取り戻すための時間です。
途中駅で降りれば、潮の匂いが肌にまとわりつきます。
雪をかぶったホームは静まり返り、遠くで波の音だけが響く。
その瞬間、気づくのです。
ああ、自分はいま“旅をしている”のだと。
五能線は、観光地を効率よく巡るための路線ではありません。
時間を忘れ、景色と向き合うための舞台です。
もしあなたが、次の休暇でどこへ行こうか迷っているなら。
もし、ただ「きれいな景色」ではなく、「心に残る体験」を求めているなら。
冬の五能線は、きっと応えてくれます。
白と群青が織りなす世界のなかで、
あなた自身の物語が、静かに動き出すはずです。
春は新緑、夏は深い青、秋は紅葉。
そして冬――。
景色は研ぎ澄まされる。
- 荒波が白く砕ける日本海
- 雪に包まれた白神山地
- 誰もいない無人駅のホーム
派手さはない。
けれど胸の奥に、じわりと残る。
五能線は観光地へ行く列車ではない。
風景そのものが目的地になる路線だ。
五能線 路線図|どこからどこまで走るのか
冬旅を計画するなら、まずは全体像を掴もう。
……なんて少し堅い言い方をしてみたけれど、正直に言うと。
五能線は、路線図を眺めている時間からもう楽しい。
一本の線が、日本海に沿ってゆるやかに弧を描いている。
それだけで、胸がざわつく。
五能線は、
- 青森方面 → 川部駅経由
- 秋田方面 → 東能代駅接続
という構造になっている。

※この画像はイメージです。
地図上ではシンプルだ。
でも、この147.2kmには、とんでもないドラマが詰まっている。
僕は初めて路線図を見たとき、「あ、これは海に近すぎる」と思った。
線路が、日本海の輪郭とほとんど重なるように描かれているからだ。
実際に乗ってみるとわかる。
本当に近い。
窓の外、数十メートル先はもう荒波。
海と線路が、まるで恋人みたいに寄り添っている。
だからこそ、ポイントは「どこで降りるか」よりも
「どの区間で景色がピークを迎えるか」を知ることだと、僕は思っている。
効率よく観光地を巡る旅じゃない。
最高の瞬間を、列車の中で迎える旅。
とくに日本海沿い区間(深浦〜岩館周辺)。
ここは、何度乗っても鳥肌が立つ。
カーブを抜けた瞬間、視界が一気に開ける。
白く砕ける波。
雪をかぶった岩礁。
鈍く光る冬の海。
「うわ……」と、小さく声が漏れる。
毎回だ。取材で何度も乗っているのに、毎回。
車内の空気が変わるのがわかる。
それまでスマホを見ていた人も、自然と顔を上げる。
あの一体感。
見知らぬ人同士が、同じ景色に心を奪われる瞬間。
これだから五能線はやめられない。
冬は特にすごい。
雪が余計な色を消してくれるから、海の青がより深く、より強く見える。
白と群青のコントラスト。
線路の先に続く、静かな緊張感。
正直に言うと、深浦〜岩館は“座席の取り合い”レベルだ。
窓側に座れたときの高揚感は、ちょっとした勝利。
でも、立ってでも見る価値がある。
車窓は一瞬、記憶は一生。
これはキャッチコピーでもなんでもなく、僕の実感だ。
路線図を頭に入れておくだけで、「あ、そろそろ来るぞ」と構えられる。
その“待つ時間”すらワクワクする。
冬の五能線は、ただのローカル線じゃない。
ピークを迎える瞬間を、列車ごと味わうアトラクションだ。
次のカーブの先に、どんな景色が待っているのか。
そう考えながら揺られている時間が、もう楽しくて仕方ない。
五能線 時刻表の確認方法|冬は“2回チェック”が鉄則
冬の五能線は、美しい。
けれど同時に、自然の懐の中を走る路線でもある。
日本海から吹きつける強風。
一晩で景色を塗り替えるほどの大雪。
ときに、列車は静かに足を止める。
これはネガティブな話ではない。
むしろ、五能線が“本物の自然の中”を走っている証拠だと僕は思っている。
だからこそ、冬の五能線ではひとつだけ徹底していることがある。
時刻表と運行状況の確認を、必ず2回すること。

※この画像はイメージです。
僕が取材でもプライベートでも必ずやっているのは、
- 前日夜に一度チェック
- 当日の朝にもう一度チェック
これだけだ。
でも、この“ひと手間”が、旅の質をまるで変えてくれる。
前日夜に確認すれば、もし区間運休やダイヤ変更が出ていても、
宿泊地や乗車区間の組み替えを冷静に考えられる。
当日の朝に確認すれば、最新の気象状況に応じた判断ができる。
五能線は本数が多い路線ではない。
一本逃すと、次は数時間後ということも珍しくない。
だからこそ、情報を味方につけることが、冬旅の専門技術だと僕は思っている。
実際、これまで何度か強風で一部区間が運休になったことがあった。
でも事前に把握していたおかげで、途中駅で下車し、予定を柔軟に組み直すことができた。
結果的に、その“想定外の途中下車”が最高の思い出になった。
駅前の小さな喫茶店で飲んだ、湯気の立つブレンドコーヒー。
地元の方との何気ない会話。
窓の外で舞う雪。
あの日、もしダイヤ変更を知らずに焦っていたら、
きっとあの時間は味わえなかった。
ダイヤ確認は、冬の五能線への礼儀だ。
自然の中を走らせてもらう列車に対する、ささやかな敬意。
そしてそれは、自分自身への優しさでもある。
完璧に予定どおり進まなくていい。
むしろ、少し崩れるくらいがちょうどいい。
冬の五能線は、“余白”を楽しめる人ほど深く味わえる。
予定が少し崩れてもいい。
そのときは駅前で温かいものを飲み、海を眺め、次の列車を待てばいい。
予定外こそ、記憶に残る。
だから安心してほしい。
きちんと確認さえしていれば、冬の五能線はあなたを裏切らない。
むしろ、想像を少し超えてくる。
冬の五能線 モデルコース(1泊2日)
もし、あなたがこの冬に五能線へ向かうなら――
僕は声を大にして言いたい。
日帰りでは、もったいない。
147.2kmの路線は、ただ通り過ぎるにはあまりにも濃い。
日本海の荒波、雪に沈む無人駅、夕暮れに染まる群青の水平線。
その一つひとつを味わうには、時間が必要だ。
五能線の魅力は、“目的地”よりも“途中”にある。
車窓に息をのみ、ふと思い立って途中下車し、駅前の静けさに身を置く。
そして夜は、沿線の温泉宿で体をあたためる。
窓の外に広がる雪景色を眺めながら、「今日はいい一日だった」と静かに思う。
それこそが、冬の五能線の正しい味わい方だと、何度も乗ってきた僕は感じている。
ここでは、実際の乗車経験と現地取材をもとに、
冬だからこそ輝く1泊2日のモデルコースを提案したい。
効率重視の弾丸旅ではない。
景色と向き合い、余白を楽しみ、心をほどくための旅だ。
さあ、白と群青が交差する路線へ。
あなたの冬の物語を、ここから始めよう。
1日目|青森 → 千畳敷 → 深浦泊
朝の青森を出発し、列車はゆっくりと日本海へ近づいていく。
市街地を抜け、視界がひらけた瞬間、胸の奥がふっと軽くなる。
ああ、海だ。
冬の五能線は、ここからが本番だ。
線路は海岸線と寄り添いながら、白く縁どられた世界を進んでいく。
途中下車するなら千畳敷は外せない。
取材でも、プライベートでも、僕はほぼ必ず降りている。
駅に降り立った瞬間、頬に当たる風が強い。
潮の匂いと冷たい空気が混ざり合い、身体の芯まで冬を感じる。
冬の千畳敷海岸は、荒々しい。
波が岩に打ちつけるたび、低く重たい音が響く。
その音は、耳ではなく、胸の奥で鳴る。
白く砕ける波しぶき。
雪をかぶった岩礁。
群青へと沈んでいく水平線。
夕暮れ、日本海がゆっくりと色を変える瞬間がある。
青から、濃紺へ。
そして、わずかに紫を帯びる。
あの色は、写真では伝わらない。
どれだけ高性能なカメラでも、あの空気の重さまでは写せない。
ここは観光地ではない。風景そのものが主役だ。
売店も派手な演出もない。
あるのは、海と岩と風だけ。
でも、それで十分すぎる。
列車の時間が近づき、再び五能線に乗り込む。
冷えた体が、車内の暖気で少しずつゆるんでいく。
その感覚すら、旅の一部だ。
夕方、深浦へ到着。
日本海に面したこの町は、冬になるとぐっと静かになる。
夜は深浦温泉へ。
湯船に身を沈めた瞬間、思わず声が漏れる。
冷えきった体が、じわじわと溶けていく。
露天風呂から見上げる冬空。
波音が遠くで響く。
昼間の荒々しさとは対照的な、やわらかな時間。
湯上がり、手袋越しに持つ缶ビールがやけにうまい夜がある。
それはきっと、
海風に吹かれ、雪を踏みしめ、五能線に揺られた一日だったから。
旅は、景色だけじゃない。体感したすべてが、物語になる。
1日目は、まだ序章。
でも、この時点で、もう帰りたくなくなっている自分に気づくはずだ。
2日目|深浦 → 十二湖 → 秋田方面へ
深浦の朝は、静かだ。
カーテンを開けると、日本海はまだ眠たげな色をしている。
夜のあいだに降った雪が、町をやわらかく包み込んでいる。
温泉宿の朝食で温かい味噌汁をすすりながら、今日の天候と運行情報を確認する。
冬の五能線旅では、これも大切なルーティンだ。
旅慣れているかどうかは、朝の準備で決まる。
列車に乗り、十二湖方面へ。
世界自然遺産・白神山地の麓に広がる十二湖は、春から秋にかけて多くの観光客でにぎわう場所だ。
だが冬は、まるで別の顔を見せる。
翌朝、雪に包まれた十二湖へ足を踏み入れた瞬間、
僕は思わず立ち止まった。
白い。
ただ、白い。
冬季は通行制限があるため、事前確認は必須。
積雪状況によっては立ち入りできないエリアもある。
だからこそ、スノーハイク体験を選ぶという判断は、むしろ賢い選択だと僕は思っている。
ガイドの案内があれば、安全に、そして深く、この森を味わえる。
雪の青池は、音が消えた世界だった。
凍てつく空気のなか、湖面は静まり返り、
木々の影だけが水面に揺れている。
自分の足音だけが、静かに響く。
ザク、ザク、と雪を踏む感触。
そのリズムが、やけに鮮明だ。
カメラを構えながらも、ふと下ろしてしまう。
この景色は、レンズ越しより、心で受け止めたい。
寒さは敵じゃない。景色を研ぎ澄ます装置だ。
頬が痛いほど冷たい空気。
指先の感覚が少し鈍るほどの気温。
だからこそ、色が濃く見える。
音が澄んで聞こえる。
記憶が深く刻まれる。
午後、再び五能線へ。
列車はゆっくりと秋田方面へ向かう。
窓の外に広がる白い世界を、最後まで味わう。
海と山と雪と線路。
それだけなのに、飽きることがない。
二日間で走った距離は、わずか147.2km。
でも心の中では、もっと遠くまで旅をした気がする。
名残惜しさと満足感が、同時に胸に広がる。
五能線は、目的地へ急ぐ旅ではない。
“いま目の前にある景色”を、最後の瞬間まで味わう旅だ。
列車が東能代に近づくころ、ふと気づく。
また、冬に戻ってきたい。
そう思わせる路線は、そう多くない。
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リゾートしらかみという選択肢
少し贅沢に旅をしたいなら、「リゾートしらかみ」も魅力的だ。
大きな窓から望む日本海。
速度が落ちる瞬間、乗客全員が海へ視線を向ける。
あの静かな共有体験は、特別だ。
五能線を代表する観光列車「リゾートしらかみ」は、冬の旅にこそ選びたい一本です。
正直に言えば、はじめて乗ったとき、僕は少し構えていました。
「観光列車」という言葉に、どこか演出過多なイメージを持っていたからです。
けれど、扉が閉まり、ゆっくりと日本海沿いを走りはじめた瞬間――
その考えはすぐに消えました。
これは“観光列車”ではなく、“景色を味わうための特等席”だ。
大きな窓は、まるで一枚のスクリーン。
冬の日本海が、遮るものなく広がる。
荒波が白く砕ける瞬間も、
雪をかぶった岩礁も、
遠くに連なる白神山地も。
すべてが、ゆったりとした座席から、静かに流れていく。
五能線の普通列車も十分に魅力的ですが、リゾートしらかみは“景色を見る前提”で設計されている。
座席配置、窓の高さ、視界の抜け感。
どれもが、車窓体験を最大化するためのものです。
冬はとくに、その恩恵を感じます。
外は氷点下でも、車内はあたたかい。
コートを少しゆるめ、湯気の立つコーヒーを手に、ただ海を眺める。
移動時間が、そのまま“鑑賞時間”になる。
さらに、運行日によっては津軽三味線の生演奏が行われることもあります。
車内に響く、力強くも繊細な音色。
窓の外には、冬の日本海。

※この画像はイメージです。
あの瞬間、列車は単なる交通手段ではなく、
青森と秋田の文化を体験する舞台へと変わります。
取材で何度か同席しましたが、演奏が始まると、車内の空気が一段と引き締まる。
観光客も地元の方も、みな静かに耳を傾ける。
海と三味線。
雪と旋律。
こんな贅沢な組み合わせは、なかなかありません。
もちろん、指定席制であることや運転日が限られる点は事前確認が必要です。
けれど、それも含めて“少しだけ特別な旅”を選ぶということ。
同じ五能線でも、乗る列車で物語は変わる。
もしあなたが、ただ移動するのではなく、
五能線そのものを味わい尽くしたいと思うなら。
冬のリゾートしらかみは、きっと期待を超えてくれます。
冬の五能線旅行の注意点|服装・持ち物
冬の五能線は、言葉を失うほど美しい。
けれど同時に、きちんと備えた人だけに、その絶景を見せてくれる路線でもある。
僕はこれまで、氷点下の深浦駅で列車を待ち、
吹雪の千畳敷でシャッターを切り、
雪の十二湖を歩いてきた。
その経験からはっきり言えることがある。
装備は、旅の快適さを左右するどころか、旅の質そのものを決める。
「少しくらい大丈夫だろう」は、冬の日本海沿いでは通用しない。
だからこそ、ここでは本気でおすすめしたい装備を紹介する。
防寒着|氷点下を“楽しむ”ための装備
真冬の五能線沿線は、氷点下になることも珍しくない。
とくに海沿いは体感温度が一気に下がる。
中途半端なコートでは、景色を楽しむ前に寒さで心が折れる。
僕のおすすめは、
- ダウンジャケット(できればロング丈)
- インナーは吸湿発熱素材+ニット
- 風を通さないアウター構造
重ね着で体温調整できる構成が理想だ。
寒さは敵ではない。
ただし、備えていない寒さだけが敵になる。
防水性のある靴|足元を制する者が冬旅を制す
雪道は想像以上に滑る。
駅のホーム、海岸沿いの遊歩道、十二湖の森の中。
スニーカーでは、正直危険だ。
防水性があり、滑りにくいソールのブーツを選ぼう。
僕は軽量のスノーブーツを愛用している。
長時間歩いても疲れにくく、雪が染み込まない。
足元が安定すると、不思議と心も安定する。
転ばない安心感があるからこそ、
景色に集中できるのだ。
手袋・帽子|体感温度を守る“静かな主役”
冬の日本海は、風が強い。
気温がマイナス2℃でも、風が加わると体感はマイナス10℃近くになることもある。
手袋と帽子は必須。
- スマホ対応の手袋(撮影用)
- 耳まで覆えるニット帽
とくに指先は、想像以上に冷える。
カメラを構えた瞬間、感覚がなくなることもある。
だから僕は、薄手インナー手袋+防寒手袋の二重構造にしている。
細部への備えが、冬の絶景を守ってくれる。
カメラ|絶景は一瞬、バッテリーは一晩で減る
冬の五能線は、シャッターチャンスの連続だ。
深浦〜岩館の海岸線。
千畳敷の波しぶき。
雪の青池。
けれど寒さは、バッテリーの敵でもある。
氷点下では消耗が早い。
だから予備バッテリーは必須。
できれば内ポケットに入れて、体温で温めておく。
それだけで持ちが変わる。
そして、ときにはカメラを下ろす勇気も忘れないこと。
目で見る時間も、最高の記録になる。
最後に|備えは、感動の土台になる
冬の五能線は、確かに厳しい。
でも、きちんと準備をすれば、
その厳しさは“透明な美しさ”へと変わる。
白く砕ける日本海。
雪に包まれた無人駅。
静まり返った森。
そのすべてを、快適な状態で味わえるかどうかは、装備次第だ。
準備は、感動への投資。
万全の装いで、冬の五能線へ。
あなたの記憶に残る旅が、そこから始まる。
まとめ|寒さの向こうにしかない景色
五能線は、速さで選ぶ路線じゃない。
最短距離でもなければ、最短時間でもない。
新幹線のような快適さや、都市のような利便性を求めるなら、ほかの選択肢はいくらでもある。
それでも、僕は何度も冬の五能線に乗る。
なぜか。
それは、この路線が「時間の使い方」を思い出させてくれるからだ。
効率でもない。
利便性でもない。
“記憶に残る時間”を選ぶ旅。
147.2kmのあいだに流れるのは、ただの移動時間ではない。
白神山地の静寂、日本海の荒波、雪に埋もれた無人駅。
そのすべてが、まるでゆっくりとページをめくる小説のように、車窓に現れては消えていく。
路線図と時刻表は、その物語を安心して読み進めるための“しおり”だ。
冬はとくに、自然が主役になる季節。
だからこそ、事前の確認や準備が、旅の深みを支える土台になる。
僕は何度も、強風でダイヤが乱れたホームに立った。
何度も、吹雪のなかで列車を待った。
そのたびに思う。
ああ、自分はいま、本物の景色の中にいる。
冬の日本海は厳しい。
波は高く、風は鋭く、容赦がない。
けれど、その先にある景色は一生ものになる。
雪に縁どられた海岸線。
夕暮れに群青へ沈む水平線。
音を失った森の奥にたたずむ青池。
それらは、写真フォルダの中ではなく、
心の奥に保存される。
駅に降りた瞬間、頬が痛い。
冷たい空気が肺に入り、思わず息をのむ。
その感覚こそが、旅のスイッチだ。
「ああ、来てよかった」
その言葉が自然とこぼれる。
同じ路線でも、冬は別の物語を走っている。
色を削ぎ落とした世界は、余計なものを削ぎ落とした自分と、どこか似ている。
静かで、誠実で、少しだけ孤独で。
だからこそ、心に深く残る。
五能線は、目的地に着くための線路じゃない。
自分の内側へと続く、一本の細い道だと、僕は思っている。
寒さの向こうにしかない景色がある。
準備をして、時間をかけて、揺られながらたどり着く景色がある。
あなたは、どんな景色を見に行きますか?
次の冬、五能線はきっと、あなたを待っている。
※本記事は公式情報をもとに構成しています。運行状況・通行規制・運転日などは変更される可能性があります。出発前に必ず最新情報をご確認ください。

